エコ動画甲子園

動画制作のポイント

大切なのは、制作者たちが楽しんでいるかどうか——
“やらされている感”のない動画作品の作り方

夏休みも残りわずかとなり、「エコ動画甲子園」の第一次選考を通過した皆さんの動画制作も佳境を迎えている頃かと思います。そんな皆さんへのヒントになればと、当甲子園の最終審査委員であり、日頃から小学生に動画制作について教えている齊藤涼太郎さん(FULMA株式会社代表取締役)に、動画を作る上でのポイントや注意点について伺いました。

制作者たちが前向きに楽しんで作った作品に期待

齊藤さんは、大学在学中に教育会社「FULMA」を立ち上げ、日本初の小学生向け教育プログラム「YouTuberアカデミー」をリリース。現在も、同プログラムを通じて、動画制作の方法や注意点などを啓発しながら、「子どもたちのやりたい!をカタチに」する活動を続けています。

そんな齊藤さんに「エコ動画甲子園」の最終審査で重視したいポイントを伺うと、迷うことなく「技術や作品のクオリティよりも、作っている本人たちが楽しんでいるかどうか」と力を込めました。

「このコンテストの作品に求めたいのは、プロが作るCMみたいな“いい作品”ではなく、作るプロセスを全員が楽しんでいることが伝わる作品です。例えばTik Tokなどで人気の動画も、作っている本人たちが本当に楽しんでいることがわかるから、見ている方も楽しめる。先生に言われて仕方なく……といった“やらされている感”は、作品を通じて伝わってきます。反対に制作に対して前向きな皆の思いは、小手先の技術を超えて伝える力になるはずです」

では、制作者が楽しんでいることが伝わる作品とは、具体的にどんな作品なのでしょうか。

「重要なのは、嘘がないこと=リアル感です。例えば、心にも思ってもいないセリフを演者がただ棒読みしているだけでは、嘘だしリアル感がありません。きっとその演者は、撮影を楽しめてもいないでしょう」

リアル感を出すには恥ずかしがらずに全力で取り組むこと

ただ、たとえ本心から思っていても、慣れないカメラの前では緊張してうまく実力を発揮できないこともあります。「その気持ちもよく分かる」とうなずく齊藤さんが、緊張を克服するためのポイントとして挙げたのは「恥ずかしがらないこと」でした。

「作品にリアル感を出すには、やはり演じる方も撮る方も恥ずかしがらずに全力で取り組むことが重要です。シーンを演じるのではなく、自分たちの本音をその場で訴えるだけと考えてみる。むしろ自分の心からの叫びをいかに動画化するかと考えたほうが嘘のない作品に仕上がりやすいかもしれません」

とはいえ動画をチームで制作する場合、一人一人の主張やコンテストに参加する目的は微妙に異なるはずです。リアル感を出すためには、その点も統一した方がいいのでしょうか。

「『この動画をいいものにしたい』などある程度の方向性は揃えるべきですが、その先にある個々のモチベーションは、『環境の大切さを多くの人に知らせたい』『バズる動画を作りたい』『仲間との思い出をつくりたい』など、人によって異なる方が自然だと思います。ただ、それぞれがどんな目的で参加しているのかを知っておくと、制作もスムーズに進めやすいでしょう」

時間と労力をかけてきちんと情報整理を

動画を撮影したら次は編集です。せっかく撮影した動画の素材を生かすも殺すも編集次第。この編集に臨む上で忘れてはいけないキーワードは「整理」になります。

「動画は文章や写真などと比べて圧倒的に情報量が多いメディアです。その情報を、自分たちの思いが伝わるようにきちんと『整理』して届ける。ここがいい加減だと、何を伝えたいのかがわからなくなります。ですから、この情報整理という業務はきっちり時間と労力をかけて丁寧に行うべきでしょう」

さらに、その『整理』の方法に関して、近年のネット動画の傾向などを踏まえて「意味や含みもない無駄なシーンは、とにかく削った方がいい」と一つ助言してくれました。

「昨今、人がコンテンツにかけられる時間はどんどん短くなっていると言われています。テレビ離れが進んでいるのは、この流れに上手く乗れず、いまだに結論を先送りするような演出手法を取り入れていることも一因。反対にYou Tubeでは、“食い気味”に動画をカットする「ジェットカット」という演出が多く見られます。すごく早いテンポで動画が進んでいくので、見ている人を飽きさせません」

編集してから再度撮影に戻るのもあり

中には撮影も編集も初めてという動画制作ビギナーもいるかもしれません。齊藤さんはそのような参加者に対して「一度編集してから再度撮影に戻る」という選択肢を提案しています。

「初心者なら、まずは撮影して編集するという一連の流れを経験してみることをおすすめします。編集で何ができるかがわかれば、撮影で押さえるべきポイントが見えてきたりします。動画制作におけるすべてのステップで100%を求めるのは、慣れていても難しいこと。撮影と編集を何度も往復しながら、必要なピースを埋めていく方法の方が、トータルで考えると案外近道だったりするかもしれません」

個人情報や著作権など情報を発信する側の責任も忘れずに

加えて今の時代、個人情報の扱いには特に気を配る必要があります。

「名前や住所などの個人情報に関することを言わないのは常識ですが、背景への映り込みにも気をつけてください。個人宅の表札やロッカーの氏名、作品に関係ない人物などにも要注意です。撮影時に加え、編集時にも改めて入念にチェックし、問題になり得そうな部分はカットしたりボカしたりするなど何らかの対処をしてくださいね」

また、音楽を使用する際にも配慮が必要です。

「今人気のYouTube動画も、著作権フリーの音源しか使っていないものがほとんどです。個人情報と著作権などの扱いに関しては、『YouTuberアカデミー』を受講する小学生にも徹底させています。高校生であればなおさら情報を発信する側としての責任を意識していただきたいですね」

さらに重要な注意事項として、「撮影データのバックアップ」を挙げました。

「恐らく多くは撮影機材にスマホを使うと思いますが、もしそのスマホを壊したり、失くしたりして、苦労して撮りためたデータをすべてダメにしてしまったら、思い出づくりどころか友情にヒビが入りかねません。そうならないためにも、面倒臭がらずにこまめにデータのバックアップをとることをおすすめします」

最後に高校生たちへのエールを伺うと、次のように答えてくれました。

「動画制作に取り組んでいる時間、そしてチームであれば仲間と一緒に何かを作ることなどを思いっきり楽しんでください。その結果、『作ってよかった』『いい思い出になった』という感想が生まれれば十分。そんな雰囲気を感じさせてくれる作品にたくさん出会えることを楽しみにしています」